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「五年ぶりですねぇ、根津見さん」 久々に聞く声に、一瞬思い出せなかった。 「……御剣さん?」 「えぇ、そうです。今、私を忘れてたでしょう」 ストレートに皮肉を言う口調は、まったく変わっていない。 それにしても、何故急に…聞き出す前に、御剣は続けた。 「あれっきりだと思ってたのですが、貴方にお知らせしなければならないことができましてね」 お知らせ…未だ回りきらない思考は、次の言葉で打ち砕かれた。 「嘉納猛が亡くなりました。北海道の前線でね」 「…………え?なん…いま、なんて……?」 「私も暇じゃないのですがね。いいですか。嘉納猛の遺留品を預かった人間が、そちらへ向かいます。待ち合わせの日時と場所を言うので、メモしておいた方がいいのではないですか?」 ぐらぐらと頭を激しく揺さぶられながら、鞄の中をまさぐった。 「言いますよ。今日から三日後の…」 「ま、ままま、待ってください!いま、書きますから…」 背広の胸ポケットから手帳を出し、白紙のページをめくった。 震える手でボールペンを握り、電話の声に耳を澄ました。 御剣は手短に用件だけ言って、一方的に電話を切ってしまった。 すぐに折り返したのだが、コール音が鳴り続けるだけだった。 あまりにも突然の報せ。あまりにも少ない情報。実感は、まったく湧かなかった。 指定された時刻の十分前。 指定された場所は高松空港。 到着ロビーに、根津見は立っていた。 相手の名前は、手塚真実。それしか知らされていない。 果たして、見つけられるのだろうか。 不安が駆けめぐる中、一分一分が長く感じる。 手首の時計を見ては、現時刻を確認する。 それを何度も繰り返すうちに、周囲の気配に鈍くなっていった。 「あの……根津見公助さん、ですか?」 うら若い女性の声に、根津見は肩をすくませて驚いた。 「…は!はいぃ!僕が、根津見公助です、が…」 答えながら、視線は彼女の顔から下に降りた。 「はじめまして。私、手塚真実といいます」 名乗り終えてから、彼の視線の先に気づいた。 両腕に大事に抱えた、真白に包まれた箱。 手塚の顔に陰りが落ち、唇を噛んだ。 「報告します。去る五月十二日、嘉納猛一等陸尉は北海道豊富町において、ゾディアック・スコーピオンと交戦。これを殲滅するも、負傷は免れず…」 白い箱を持つ手が、震えた。 「名誉の、戦死を遂げました。……ですが、私は残念でなりません」 こみ上げる感情をこらえながら、言葉が乱れることはなかった。 まだ顔に幼ささえ残る。それでも彼女は、軍人としての務めを全うしていた。 根津見は、久々に心が動くのを自覚した。感動に近い敬意を抱いた。 その一方で、現実を受け入れなければならない。 根津見は混乱しそうな頭をどうにか落ち着かせ、目の前の女性に言葉をかけた。 「お勤め、ご苦労様です。貴女もたいへんだったことでしょうに、よくここまで…最後まで、嘉納さんについてきて下さったんですね。きっと、嘉納さんも喜んでいると思います」 手塚の目が、きょとんと丸くなった。 「あ…いや、僕が言うのはおかしいですよね。すみません。嘉納さんとは何度か手紙を交わしただけなのに、彼のことをわかったような事を言ってしまって…」 「い、いえ、私も数ヶ月の間、嘉納さんの身の周りのお世話をしていただけですから…」 両者ともに、頭を上げ下げする。 滑稽なことに気づき、手塚は思わず吹き出した。 ころころと変わる顔色に、根津見は戸惑った。 「でも…根津見さんとは、初めてじゃない感じがします」 またすぐに、表情を引き締めた。 「私、六年前まで丸亀少女の家に居ました。そこで、姫島巴ちゃんと同室でした」 必死に、涙をこらえていた。 |
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