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大事なものは目蓋の裏 #9
久留米市、高良山山頂。
標高三一二メートルと書かれた木柱の前に、三人の男が立っている。いずれも迷彩服をまとい、石段の上に腰を下ろして談笑している。
「そういえば、今年は注目株がいるらしいぞ」
「ああ、『あの』楠木家のぼんぼんだろ」
「どうせ大したもんじゃないって。まだ時間があるし、ゆっくり一服してようや」
幾ら四年間の訓練を経たとて、この高良山の登山走は生易しいものではない。故に彼らは『今年も』のんびりと煙草をくゆらせ、走者が現れる時間まで悠長に過ごすつもりでいたのだ。
しか...
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2012/03/29 23:30 |
大事なものは目蓋の裏 #8
さて……教官にもまれたり、上級生に弄られたりしながら、四年の月日はじりじりと削れていった。
後にも先にも、俺の人生にとって公私ともに順調だったのはこの頃が一番だったのではなかろうか。
俺は首席卒業も決まって、のんべんだらりと過ごしていた。後に残っているものといえば、卒業式の点呼者の練習やら答辞の文面やら、その辺りを真面目に考えるくらいだ。
そこまで登りつめると与えられる自由も多く、遊びも派手になっていた。横須賀にいるのもあとわずかだと感じると、ますます名残り惜しんでいた。
そし...
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2012/03/12 01:38 |
大事なものは目蓋の裏 #7
順調に大学二年目に進んだ俺は、一年ぶりに京都の家に帰省した。
時々親父に電話することはあったものの長話はできなかったので、この一年の事を延々と語る羽目になった。
俺が一方的に話すばかりだったが、狩野教官のことを出すと親父もようやく口を開いた。
「そうか。懐かしいものだな」
そう、一言つぶやいただけだが。
その狩野教官が言った“鬼神隊長”とは、この人のことだ。“鬼の巴御前”というのは、かの高名な女武将からあやかったものだが、お袋の名前が巴だからそのまんまである。
……普通は...
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2012/02/24 23:25 |
大事なものは目蓋の裏 #6
何故俺の進学は防衛大学一択だったのか、という話に戻ろう。
大雑把に言えば、うちの家督で帝国軍に身を置かなくてはいけないのだが、裏向きの事情というのがある。
楠木家は平安時代から妖怪退治をしていた一族だといったが、その組織の名をクスノハという。
ぶっちゃけると、そのクスノハの統帥というのが俺の親父、楠木希信だ。将来は俺も統帥の座を継ぐことになっている。
しかしこれは裏の顔。表の顔としては、帝国軍幹部として振舞わなければならない。親父も昔は…当時の自衛隊にいて前線に立っていたが、そ...
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2012/02/20 00:54 |
大事なものは目蓋の裏 #5
さて……俺はいきなり、年頃の女の子と二人っきりにされてしまったんである。
しかも、相手はとびきり美人だ。これは“かわいい”っていうより、“美人”ってジャンルに該当する女の子だと思う。
俺は、クラスの女子とだってまともに話したことがない。グループ内なら話し合ったりするけど、一対一なんて初めてだ。
どうしたもんかと気を揉んでいると、鈴を転がすような声が口火を切った。
「この度は、巴おばさんのこと、とても残念でした。お悔やみ申し上げます」
あまり感情がこもってないのは、もともとそう...
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2012/02/03 03:07 |
大事なものは目蓋の裏 #4
台所に行くと、家政婦の石崎さんがいた。
この人は、それこそ俺が生まれる前からいる年長者だから、だいたいこの家のことはなんでも知ってる。
「石崎さーん、なんか食えるもんない?」
俺が妙に明るい声を上げるもんだから、石崎さんはぽかんと口を開けた。
「あ…ごめんなさい。遅くに帰ってきたからお腹がすいたんです。おにぎりでもいいんで、食べられる物があるとうれしいです」
すると石崎さんが歩み寄ってきて、俺の両手を包みこむようにして握った。
「坊ちゃま、奥方さまがお亡くなりになったのに…親...
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2012/01/27 02:45 |
大事なものは目蓋の裏 #3
携帯には何度も着信があったけど、一切無視した。
どうせまたお袋が早く帰ってこいとか言ってるんだ。その手には乗るか。
それでも七時過ぎには帰った。外の飯より、うちの飯の方が断然美味いしな。
門をくぐるなり、家の中がなんだか騒がしかった。
出迎えてくれた家政婦さんが、小走りで俺に向かってきた。
「お坊ちゃま、何度も電話したんですよ!」
「いやー、ごめんごめん。遊びに夢中になっててー」
「奥方さまが…大変なことに……」
「なにー?またなんか変な事でも口走ってんの?」
耄碌...
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2012/01/18 01:26 |